篤農家は出会いに投資する（その１）

篤農家（とくのうか）の大先輩がいます。この先輩は２５年くらい前に、我が地区に新作物を導入して産地を作った先駆者です。
　この先輩は、昔から農業はビジネスだと位置づけ、いろいろなチャレンジをしてきました。私が知る先輩は、既に、アグリビジネスを軌道にのせ順風満帆の人ですが、ここまでくるには、やはり、挑戦と失敗の繰り返しだったそうです。
　この先輩も、「今はインターネットがあって、いいよなぁ、自分が若い頃にもあれば、もっともっと違った展開ができたなぁ」と、インターネットの情報収集力には、盛んに感心しています。

　「でも、先輩、インターネットも無い時代に新作物を導入し独自の販路も開拓した先輩の情報収集力の方がすごいよ〜」と私。
　
　農家が、新しい作物を導入し、それに転換していくのは、想像以上に、たいへんなことです。原則、畑の土だけは共通して使えますが、作物ごとに特化した道具や技術も多く、それら既存の設備も活かしながら新作物を作る環境を再構築するには、莫大な時間と労力、知恵と精神力が必用となります。
　しかも、これまでの品目を作って収益を確保しながら、次期作物の研究開発と立ち上げをやらなければなりません。先輩もそういう転換時期には「寝ないで」がんばったと言います。サラリーマンであれば２チーム６人分くらいの仕事を、ほとんど先輩と配偶者ふたりでこなしてきたわけです。
　ちょっと言い方は悪いですが、サラリーマンは、収益が未だ出ていないモノの開発・研究・試作・開拓などをしていても、給料がもらえます。企業にとって、次世代商品の開発は最重要課題ですので、そこに投資します。いわゆる拡大再生産の部分で、将来に対する投資は惜しみません。
　しかし、農家は、拡大再生産するだけの経営的な余裕は無いものです。農協だって、実績のある作物の規模拡大には融資するとしても、実績の無い、海のものとも山のものともわからない新規作物の開拓のために、融資はしません。しかし、経営である以上、常に新規部門の開拓をしなければならない、そのことをわかっているかどうか？　わかっていても、やりきれるかどうか・・・・そこが分かれ道になります。
　農家は今までの作物をフル回転して仕事をこなし、きちんと収益を確保してから、さらに時間を無理矢理作って新規開拓の部分をやらねばなりません。
　そして、サラリーマンと違うのは、新規開拓の仕事をしている時間は、短期的にみれば一銭も収入がありません。いくら将来への投資とはいえ、とても精神力のいることなのです。

つづく