篤農家は出会いに投資する（その２）

その１からのつづき


　「実績もない新作物に、時間も労力も懸けて、オレには渡れない橋だなぁ」と、いつも目先のことだけに追われ、将来への投資ができない私がそう言うと、
　先輩はいいました
「やっぱり出会いなんだよ」

　先輩は３０年前、親の代から受け継いだ作物には見切りをつけて、より将来性のあるものに転換する必用性を強く感じていました。当時の経営作物は、どちらかといえば大量生産を目指す、薄利多売のものでしたが、今後は、高付加価値のつけられる作物でないと生き残れない、そういうビジョンを持っていたのです。
　学生時代の友達が全国にいて、将来性のある作物の噂話しは、いろいろ聞こえていました。しかし電話で新作物の話をいくら聞いても、たいした情報はつかめません。情報を集めようにも、これといって方法はない。
　そこで、先輩は、もう、とにかく、金をケチらずに現場を見に行く、という手法をとりました。「借金してでも旅をしよう」というスローガンを夫婦で決め、忙しい営農の合間合間に全国を飛んで回ったそうです。
　情報収集のための投資はケチらない。その方針が、功を結び、今、大成功を収めているわけです。

　ここで、情報収集のための投資を、もう少し具体的にイメージしてみましょう。
　全国飛び回って農家に視察に行くわけですが、先方の農家も忙しいわけです。どんな作物でも、収穫直前や収穫開始直後の時期が見るべきものが多いので、その時期を狙って視察に行きます。が、視察される側の農家は、そういう時期は、超多忙で、人に合って話しをする余裕は、あまりありません。ですから、わざわざ飛行機や高速を使って訪ねていっても、農園主から話しを聞いたり，見たりして情報収集できるのは、せいぜい１〜２時間くらいなものです。１〜２時間のために交通費数万円使うわけです。
　「情報収集としては、割が合いませんね、インターネット時代からみれば」と私。
　先輩は言いました。

　「情報収集だけじゃないんだよ。よく考えてみろ。そうやって、金使ってでも、出会いを作って、きっかけを作っていかないと、次へ踏み出せないんだよ」
「オレが視察に金を使ってきたのは、チャレンジするモチベーションを高める意味もあったんだ。出会いだよ。人との出会い、作物との出会い、技術との出会い」

　こういう考えだから、新作物の産地化という偉業を成し遂げられるのですね。
　もし、親の代からの作物を、事勿れ主義的にずっと続けていれば、今の先輩は無かったでしょう。
　きっかけ作りの旅を繰り返し、きっかけ作りに投資して、そうやって、ある意味自分を追い込んでいくことで、作物転換という難局を乗り越え、今の成功に至ったのです。

　低モチベーションの「なりゆき農家」の里山アグリとしては、ただただ感心するだけです。がしかし、今のイマイチな状況から私が抜け出すにも、今こそ先輩を見習わなくては、って感じです。　
　さぁ、みなさんはどうでしょう？