|農業|田舎|事典[め] メリクロン培養「植物細胞は不滅？」

メリクロン培養　メリクロン苗

　メリクロンはメリステム・クローンの略。メリステムは成長点の細胞分裂しているところ（分裂組織）。クローンは複製のクローンだ。
　けっこう古くからあるバイテク（バイオテクノロジー）技術のひとつで、メリクロンは、蘭の株を増殖するために、研究開発された。蘭はもともと交雑しやすく、同じ花を大量に作ることはできなかったが、このメリクロン培養技術の開発のおかげで、さまざまな種類の蘭を品種として手に入れられるようになったのだ。
　やり方としては、0.3ミリくらいの成長点を培地におく。すると成長点はどんどん増殖し、カルスを形成する。ここで、植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニの与えるレシピを変えると、カルスの細胞ひとひとつが、根を出し芽を出し、ひとつの新しい木になるのである。

　メリクロン培養は、イチゴの苗作りでも盛んだ。ウイルス病予防のためである。
　野菜や果樹のウイルス病は親から子供へ伝染してしまう。イチゴは特に、株分けで増やしていくので、もし親株がウイルスをもっていれば、次作は全滅してしまうのだ。そこでメリクロン苗の登場だ。成長点の細胞はウイルスに犯されにくいところに注目し、そこからクローンを作れば、ウイルス・フリー苗が大量に作れるというわけだ。

　このメリクロン培養のポイントは、植物細胞の脱分化と再分化する過程である。

　はじめは受精した卵（胚）だった一個の細胞が、いくつかに細胞分裂し、やがて、細胞ひとつひとつは自分の役割に特化した形に姿を変える。根の細胞、芽の細胞、樹皮の細胞・・・・このことを分化という。
　脱分化とは、その逆で、分化して性質が特化した細胞が、胚と同じ性質の細胞に戻ることを言う。カルスの状態が、脱分化した状態だ。
　ここでホルモンを与えると、胚が再分化して、ひとつの植物体として、あらたな人生（？）を歩みはじめるのだ。いったんは根っこや葉っぱに性質を特化した細胞だが、再び胚としてゼロからやり直せる、このことを分化全能性という。葉の細胞でも、根の細胞でも、ＤＮＡには、植物全部の情報が入っている。それを、いつでもリロードできるのが、分化全能性だ。

　ちょっと難しくなったが、ようするにどの部分の細胞をとっても、そこから一個の個体として蘇ることができる力が、植物は動物に比べて格段に強いのである。やはり、植物の方が強くて、生命として頼りがいがあるような気がしてきた。滅亡期の地球で、救いを求めるなら、植物に。


[参照]→e-種やネットのウィルスフリー苗の解説