逆兼業農家のあるべきすがたとは？

　逆兼業農家とは、定職は農外にもっているけれども、主に週末や早朝を利用して農業を行い、自家消費以外にも、農産物を販売することもある、そんな就農スタイルです。
　仕事未満、趣味以上で、農に取り組むスタイルです。
　逆兼業農家は、趣旨が、家庭菜園と大きく違います。家庭菜園は家族の楽しみや自給のため行います。しかし、逆兼業農家は、地域農業を常に視野に入れたうえでの取り組みとなります。
　面積としては最低１００坪は、ほしいです。使いこなす自信のある人は、３００坪（１反）くらいに挑戦してもよいでしょう。１００坪は１０メートル×３０メートルくらいで、ここをフル回転させると、とても友達中に配っても自家消費じゃ食べきれない量が収穫できます。鍬で耕すのは無理ですので、プチ耕耘機を導入するか、近くの農家に借りるかです。規模的にいっても、家庭菜園と呼ぶには、無理がある広さです。
　
　面積はわずか１００坪ですが、そこでしっかりとした農業生産を行うことによって、地域の農村社会や農業業界に対して、一定の存在感をアピールする、それが逆兼業農家です。１００坪でも、「いちおう農民」であるという意識が必用です。周りの農家は、はじめのうちは、逆兼業農家のあなたを「農民」扱いしませんが、それでも、あなた自身は「いちおう農民」であることを常に意識するべきです。
　あくまで採算を追求しない「農」とはいえ、趣味以上ということは、それなりの社会的意味があるということです。好き勝手に１００坪使って何やってもいいじゃんという発想ではなく、地域農業の中で、自分の１００坪がどういう意味をもっているか、頭の隅っこに常に、そんな考えをもっておかなければなりません。周りのことまで常に考える癖をつけておけば、自然に地域に溶け込んでいけるものです。

　逆兼業農家をはじめる場合、やはりそれなりの営農計画が必用です。自家用野菜の菜園は３坪もいらないくらいですから、残りの９７坪以上をどう活用するか、まじめに計画しないと、まったく使いこなせません。
　逆兼業農家の営農モデルとしては、たとえばこんなのはどうでしょう。
　

つづく

定年帰農系の逆兼業農家の営農モデル

「逆兼業農家のあるべき姿とは」からつづき

逆兼業農家の営農モデルその１ 　定年帰農・早期退職型の逆兼業農家

　定年退職あるいは早期退職して時間的・経済的な余裕がある人であれば、少量多品目生産の菜園を目指してはどうでしょうか。ありとあらゆる野菜を植え付け、年間を通して畑を回転させていきます。毎日、いろんな種類の野菜が、かなりの量、収穫できるでしょう。自分の名前を付けて、無人販売なりで販売することを、お勧めします。少量多品目は、小規模で取り組めば，収益性がとても高い方法です。100坪でも、うまくやれば、畑の運営経費以上の売り上げが出て、プチ「黒字経営」を目指せます。
　ふつう農家は、単一作物の大量生産で流れを作ってしまっているので、少量多品目は、やりたくてもなかなか手がでない分野です。
　年間を通して、いろいろな野菜をきれに回転していれば、そのうち、あなたの菜園は、地域で「品種研究所」としての役割を担うことになるでしょう。まわりのプロ農家は、もちろんはじめは目もくれないでしょうが、３年くらい取り組んでいると、新品目の野菜のことなら、あなたのところに聞きにいけということになります。

　民間の「研究所」の存在意義は大きいものです。たとえば、小松菜ひとつにしても、各メーカーから多くの品種が発売されています。これらの品種について、一般的なデータや比較研究はあっても、その地域のその作型では、どの品種が良いのか？という、その土地固有の試験データはほとんどありません。一部の篤農家がテスト研究しているだけです。
　農業業界のデーターというのは、出どころが、ひとつしかないことが多いです。たまたま１０年前に一度だけ県の農業試験場でやった結果のデーターだけで、この時期はこの品種という定説（というかほとんど思い込み）ができあがってしまっているとか、そんな感じで、とにかくデータの集積が不十分なのです。自然相手ですから、ほんとうは毎年毎年、できるだけ多くの試験データーを集めて、統計値をみて、そこから仮説をたてたり結果を導いていかなければならないのですが、そこまで研究する手間も暇もやる気も、誰ももっていないのです。こういう、細かいデータ集積作業は、時間のある退職組の逆兼業農家には、ぴったりの仕事です。そういうささやかな試験のデータ蓄積の役割を地域で果たすことで、将来、そのデータが地域農業にとって大きな材料になるかもしれないのです。

　また、栽培技術の研究所としても、逆兼業農家は活躍できます。農業業界には◯◯エキスとか◯◯菌のように、ほんとうに効くのか効かないのかビミョーな資材がたくさんあります。往々にしてこういう資材は、公的な試験場からは黙殺されていますので、逆兼業の民間試験場の出番です。なんらかの効果があるはずですので、その効果を正しく観察し、農家に情報提供することは、ひょっとすると専業農家の技術革新に大きなきっかけを与えることになるかもしれません。

　もうひとつ定年帰農系逆兼業農家の大事な役割があります。それは、地域の伝統野菜や地域の固定種の種などを守っていくことです。
　若い専業農家は現金稼ぎ中心で、本来の農の大事な部分であるはずの，種の保存や継承などを、やりたいと思っていても、なかなか手がまわりません。
　もしかしたら、ある一粒の種が、逆兼業農家のあなたがいたからこそ、消えずに後世に伝えられる品種となるかもしれないのです。

　このように、逆兼業農家は、経済性や合理性の陰で疎かになったり忘れられたりしてしまうことを、フォローできるのです。こんな逆兼業農家が地域に増えれば、地域の知的財産・農的財産のランクが、どんどん上がっていくのではないでしょうか。定年組、プチリタイア組の方は、そんな役割を果たすことに自分の居場所を見つけてはいかがでしょう？

　　

つづく

サラリーマン系逆兼業農家

「定年帰農・早期退職型の逆兼業農家」からつづき

　逆兼業農家の営農モデルその２　サラリーマン形逆兼業農家

　若い人で、サラリーマンとして働きながら逆兼業農家をする人は、どういう営農モデルにすればよいでしょうか？
　あまり品目を増やしても、日中に本職がある人は管理しきれませんので、効率化のためにも、自家用以外は、１品目に絞ってみるのもいいと思います。自家用には３坪もあれば充分ですので、ほとんどの面積を１品目ガーンと入れてしまいます。
　１品目１００坪入れると、もちろん、とても個人でさばける量ではありません。もし、トマト、キュウリ，ナスなど実物野菜が１００坪あると恐ろしい仕事量です。収穫シーズンの数ヶ月は平日の早朝と夕方はほとんど畑に張り付き、ピーク時は残業も覚悟しなければならなくなるでしょう。そこまではチョットと思う人は、毎日収穫ものの野菜は避け、一発収穫ものにしてください。

　この１品目コースの場合は、あらかじめ農協や出荷組合と相談のうえ、生産組合の一員として参加することになります。売る商品を作るという点では、まさに、プロの農家です。
　出荷組合には、「はじめの１年目は、まぁ、できた品を見てから、とってやるかどうか決めるよ」と言われると思いますが、組合の指導に従って、あるいは先輩農家にしっかり教わりながらやれば、売れるものはとりあえずできると思います。うまくいけばそれなりのボーナスになるでしょう。
　１年目の経験で、あなたは、組合や先輩農家の指導のなかで疑問点が出ててきたり、自分なりの改善点などを、いろいろ思いつくでしょう。WEBで調べると、他にもいろいろなやり方があることがわかるでしょう。２年目からは、密かに、自分なりのやり方を取り入れていきます。いい結果がでれば、先輩たちも「オマエ何か珍しい技を使ったのか？」とチェックを入れてくるはずです。

　そういう感じで、あなたの１００坪農園は、新技術の実証圃場としての役割を果たすことができます。生活がかかっている農家は、自分の技術や方法論に対して、どうしても保守的になりがちです。去年もそこそこなんとかなったので、今年も去年と同じことをやってしまうのです。目先の生活費や借入金の返済のことを考えると、どうしても冒険できない。そこを、もしあなたが、１００坪で新しい技術革新に取り組んでいけば、地域農業の大きな技術革新につながるかもしれません。
　出荷組合に参加している以上、その組合の仕事や手伝いにも、積極的に参加しましょう。そのうち、組織活動に対しても、いろいろ言いたいことが出てくると思います。何か意見を求められた時には、いろいろ提案しましょう。たいがいの農業系組織は、メンバーも固定化し活動もワンパターン化して硬直してますので、新しい血を欲しがっています。若い逆兼業農家のあなたが居るだけで、農村にとっては、ほんとうにありがたいことなのです。

　このように、逆兼業農家の立場で、プロ農家の世界に加わるスタイルが、産地の新しい方向性に小さな希望をもたらすことになるかもしれません。
　さらに、数年、逆兼業農家をつづけるなかで、もしかして、産地や出荷組合の新たな可能性が見えてきたとしたら、その時に、本格的に就農するというコースもあります。あくまで「なりゆき農家」路線ではありますが、ギリギリなんとかなる「なりゆき農家」は目指せる方法だと思います。

　

つづく